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VALUE INTERVIEW ~ヘルスケア業界の将来展望~

VALUE INTERVIEW 02

アカデミアに
おける臨床研究

ー医師主導治験は
どうあるべきか

VALUE INTERVIEW ~ヘルスケア業界の将来展望~ VALUE INTERVIEW 02 アカデミアにおける臨床研究 ー医師主導治験はどうあるべきか

VALUE INTERVIEWとは・・・

SSIがお届けするスペシャルインタビュー。いま医療の現場で何が求められているのか、医療はどのような進化を遂げているのか。医療・医薬品業界において、各分野をリードする専門家にお話をうかがいます。医療機関の治験業務を支援するSMOだからこそ知ることができる業界最前線情報を対談形式でお伝えいたします。
第2回目のお相手は、京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター・EBM推進部(旧EBM(共同)研究センター)において、長年にわたり医師主導の市販後臨床試験を手がけてこられた上嶋健治先生です。2018年4月に施行された「臨床研究法」により、臨床研究に対する信頼性を確保するため法的な規制が課されることになりました。これにより、今後の臨床研究はどのように変わっていくのか。医師の視点から見た課題を上嶋先生にお聞きします。

EBMの原点となる臨床研究

三嶽: 上嶋先生と仕事で初めてご一緒したのは降圧剤に関する大規模臨床試験の時であったと記憶しています。症例数はたしか4,000を超えていたのではなかったでしょうか。

上嶋: 私は当時データマネージャー(DM)を取りまとめていましたが、登録症例数が4,728名、そのうち解析対象となったのは4,701名と記憶しています。

三嶽: 当時、上嶋先生がおられたのは、京都大学大学院医学研究科EBM(共同)研究センターでしたね。本大規模試験では、EDC(Electronic Data Capture)システムの先駆けといえる試みが導入されるなど、革新的な取り組みが行われていました。

上嶋: この試験は2001年に始まり、2005年12月に終了しました。その後試験期間の延長を2回行い、最終的には文部科研費の助成を受けて、対象患者を10年間追跡するプロジェクトとしました。10年間のデータを収集できた患者数は1,313名で、その結果をまとめて本年論文 (J Hypertens. 2018 May 9.) として発表できました。

京都大学医学部附属病院相談支援センター センター長 上嶋健治先生

三嶽: 全国の患者さんを10年間も追い続けるのは、並大抵の努力ではできなかったのではないでしょうか。

上嶋: 参加していただいた先生方の中には途中で亡くなられた方、閉院された先生もおられます。よく続けられたなと思いますが、支えになったのは私の原点となっている恩師の平盛勝彦教授からの言葉「信じたものを正しいとするのは宗教の世界である。単にしたいからするのは子供の世界である」でした。まだEBMという概念さえなかった時代、自らJAMP試験(Am Heart J 148: e8(292) 2004)を立ち上げられた平盛先生のこのお言葉は強く印象に残っています。

医師主導治験の課題

三嶽: 2002年の薬事法改正により、医師主導による治験が行えるようになりました。

上嶋: 医師主導治験を実現にこぎつけたのは、医師たちの間に次の2つの強い思いがあったからです。第一はドラッグラグを一刻も早く解消したいという思いであり、第二は製薬企業が手を出しづらい希少疾患の患者さんを何とかして救いたいという思いです。京都大学には2001年に探索医療センターが開設され、今では臨床研究総合センターとして総勢100名ぐらいのスタッフを擁して、その中で医師主導治験が行われるようになりました。探索医療センター時代の成果の一つが「レプチン」です。

三嶽: 難病の脂肪萎縮症に苦しむ患者さんを救う、画期的なレプチン補充療法ですね。

上嶋: レプチンについては2010年11月から治験を開始し、2012年に終了届を出して、2013年3月に製造・販売が承認されました。医師主導治験には、専従医師、薬剤師、看護師などの医療スタッフに加えてスタディマネージャー、DM、モニター、CRC、生物統計の専門家、そして事務方などを含めて多くのスタッフが必要になります。もちろん現在の臨床研究中核病院には施設に求められる基準・条件も厳密に定められており、その整備には巨額の費用が必要であるにもかかわらず、治験が成功したからといってそれに見合う報酬が得られるわけではありません。そもそもよほど体力のある組織でなければ、ある意味不採算部門に陥ってしまうこのような部門を抱えること自体難しいでしょう。だからサイトサポート・インスティテュートさんのような企業に期待するところは大きいのです。

三嶽: 我々としては、支援する先が医師の方でも企業でも、果たすべき役割に違いがあるとは考えていません。治験なら承認申請に向けてであり、研究であれば新たな成果を出すのが目標だと思います。ただアカデミアにおける研究の場合は、取り扱われる内容が医学の最先端領域となるだけに難易度が高まると思いますが。

上嶋: 医者は企業人と違って、採算ではなく研究成果が主眼となるため、ある意味思いつき(アイデア)が先行するので、ついて行かれるのが大変でしょう。

三嶽: そこが最先端の研究に関わる醍醐味でもあると思うのです。我々もしっかり勉強しなければならないと気を引き締めています。

アカデミアの弱点を補う存在として

上嶋: これまでに市販後臨床試験を主導してきた医師は数多くいますが、臨床研究法に基づく特定臨床研究で要求されるレベルの複数の各業務について、すべてに精通した人材となると、ごく限られてしまいます。大学にはARO(Academic Research Organization)機能があるとはいえ、特にモニタリングやデータマネジメントに関するノウハウはほとんどありませんでした。これはアカデミアの最大の弱点です。
最もクリティカルなポイントは、試験に協力してくれる患者さんを必要数集めることです。試験を行った結果、ネガティブデータが出るケースはありますが、これは決して試験の失敗ではありません。要するに、その条件下で、その方法では効果が検出できないとわかっただけでも一つの成果なのです。それよりも試験における失敗とは、患者数が予定どおりリクルートできなかったとか、十分なフォローアップができずに脱落率が高かった、あるいはプロトコル違反が異常に多いといった場合などです。中でも、大前提となる患者さんのリクルートが不十分だとどうしようもありません。

三嶽: おっしゃるとおりで、我々はSMOの立場から先生方のご支援に重点を置いています。その中でも臨床試験開始時においては、患者さんのリクルートが我々に対する最大の期待だと心得ています。加えて我々に求められる業務も段階的に変わってきていると実感しています。ひとことで言えば臨床試験に関してマルチタスク対応のできる人材が望まれているのではないでしょうか。

上嶋: 臨床研究法ができて、研究責任医師に課せられる責務が一気に重くなりました。しかも準備、実施、終了の各段階で膨大なペーパーワークが求められます。法に基づく試験を進めるために何より求められるのが、研究責任医師をマネジメントする、あるいは寄り添ってともに歩んでくれる、スタディマネージャー的な人材です。こうした人材は、サイトサポート・インスティテュートさんのような企業にしかいないと思うのですが。

三嶽: そのご期待に少しでもお応えするため、臨床研究を数多く経験・実施されている上嶋先生にご協力いただき、本年から施行となった臨床研究法についての勉強会を始めました。治験に関する経験が豊富とはいえ、アカデミアとの連携も含め、新しく学ぶことはたくさんあります。

京都大学医学部附属病院相談支援センター センター長 上嶋健治先生とSSI 代表取締役 三嶽秋久

より重要になる臨床研究中核病院の役割

三嶽: 2015年4月から施行された「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」により、臨床研究中核病院の位置付けが定められました。

上嶋: 臨床研究中核病院は、次の3つの課題解消を目指したものです。第一は、臨床研究の質をGCPレベルまで高めて大学研究機関からも薬品の候補物質を出すことです。第二は医師主導治験を増やすことであり、第三が市販されている医薬品の効果を調べる試験の実施です。いずれにしても国際水準での臨床研究をするための機関として、厳しい基準が設けられています。

三嶽: 2018年3月末の段階で認定されているのが全国でわずかに12病院、今後は病院間のそれぞれの特徴づけが広がる可能性がありそうです。

上嶋: 実は臨床研究中核病院になったからといって、診療報酬面で大きなプラスになることはほとんどありません。ただ、公募研究への参加要件となるなど、少しずつ差をつける動きが出始めています。その結果、今後は大学によっては基礎研究だけ、あるいは臨床研究だけなど、取り組み方に差が生まれてくる可能性があります。今年(2018年)の日本臨床試験学会では研究機関から医師養成機関になってしまう大学も出てくるのではないかと、危機感を募らせる声もありました。ただし、個人的にはこれは大学間の役割分担という意味合いもあり、すべてが格差というわけではないと受け止めています。

三嶽: 我々も臨床研究に対応できる基本的な体制を整え、部分的に足りないスタッフがいれば、お手伝いするイメージで、今後より一層全力でサポートしていく覚悟をしています。

上嶋: サイトサポート・インスティテュートさんぐらい経験値がある企業からであれば、病院サイドとしても安心してサポートを受けられます。

三嶽: ありがとうございます。ところが実は、大学病院の事務部門などは、まだまだ我々の活動や支援内容をご存じないところがあるので、いま、積極的にご説明に回っているところです。

上嶋: 確かに異動も多い大学病院の事務方に、CROやSMOの話をしてもピンとこないかもしれませんね。

三嶽: SMO発祥の地は日本で、アジア地域では普及しておりますが、企業数は日本がトップです。一方で、欧米の研究に取り組む病院には先ほど上嶋先生が仰っていたスタディマネージャーがいますね。

上嶋: 欧米では、臨床研究を行う病院には必ずデータセンターがあり、データはそこに格納されています。そして臨床研究を生業とし、データを扱える専門のドクターもいる。日本の臨床研究では、ほんの何年か前までは、医局にあるパソコンの中にデータが収められているケースもあるなど、彼我の違いは大きいものでした。今後は診療科の枠を超えて、臨床研究を専門とするドクターを育てる必要があります。例えば公衆衛生大学院が東京大学と京都大学にできて、まだやっと10年少しですから。

三嶽: 米・ハーバード大学などにはずっと以前からありますね。

上嶋: 2017年には個人情報保護法・臨床研究法・次世代医療基盤法(ビッグデータ法)という医学研究に大きな影響を与える法律が立て続けに成立するなど、臨床研究に関して日本はいま過渡期に差し掛かっている印象を受けます。

京都大学医学部附属病院相談支援センター センター長 上嶋健治先生とSSI 代表取締役 三嶽秋久

アカデミアが企業に求める役割

上嶋: 研究に取り組む中で、決して忘れてはならないのが患者さんの存在です。私は今年(2018年)4月から京都大学医学部附属病院の相談支援センターでセンター長を務めていますが、ここは患者さんと接する現場であり、その切実なニーズを肌で感じています。今は患者さんもインターネットを使っていろいろ調べて、自分に関わりのある治験や臨床試験があれば積極的に参加したいと相談を受けます。

三嶽: 臨床研究中核病院は、患者申出療養の受け皿にもなっていますね。

上嶋: 切実な患者さんからのご要望にお応えするためには、この制度を利用して患者さんの視点の臨床研究がもっと立ち上がっても良いと考えています。ただしそのような研究、あるいは患者申出療養のいずれの場合も、臨床研究法下で実施することになるので、膨大な手間暇が必要になります。

三嶽: 患者さんとの接点は、我々も治験を通じて数多くあり、現場のCRCは、患者さんを支援するノウハウも持っています。そうしたノウハウを研究に携わる先生方と共有できれば、さらに突っ込んだお手伝いができるのではないでしょうか。

上嶋: ぜひ期待したいところです。CRCは患者さんから密に情報を収集されているから、我々では得難い生の情報を持っているでしょう。

三嶽: そうした情報を活用するために、CRCが個別に持っているノウハウの共有化に取り組んでいるところです。さらに今後を見据えて「音声認識ソリューション」の導入も始めています。

上嶋: それは何でしょうか。

三嶽: iPhoneアプリによる治験支援システムで、音声による治験データ入力や、患者さんの声や先生方の声も入力してデータ化する取り組みです。

上嶋: 究極のペーパーレス化ですか。そうした先進的なツール開発も含めて、我々アカデミアからの企業に対する要望は、まず何より必要なことが透明性の担保、そしてクオリティの高いEDCを可能な限り安価に提供していただきたいこと。さらに研究者に寄り添うマルチタスクのこなせるスタディマネージャーの存在です。

三嶽: 透明性はもちろん、EDCに関してはロボット技術の活用による低コスト化に取り組んでいます。人材のサービス提供がもっともハードルの高い課題ですが、上嶋先生の協力も得ながらご期待に沿えられるよう全力で取り組んでいきます。

Profile

京都大学医学部附属病院相談支援センター センター長 上嶋健治先生 Kenji Ueshima

京都大学医学部附属病院相談支援センター
センター長
上嶋 健治 先生 Kenji Ueshima

和歌山県立医科大学 大学院博士課程内科学(循環器)修了。国立循環器病センター心臓内科レジデント・医師、和歌山県立医科大学内科学(循環器学講座)助手、岩手医科大学内科学第二講座講師、岩手医科大学内科学第二講座・循環器医療センター助教授、京都大学大学院医学研究科EBM研究センター教授、京都大学医学部附属病院臨床研究総合センターEBM推進部教授を経て、現在、京都大学医学部附属病院 相談支援センター センター長。