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VALUE INTERVIEW ~ヘルスケア業界の将来展望~

VALUE INTERVIEW 03

これからの時代の
医療関係者に
必要な倫理観とは?

VALUE INTERVIEW ~ヘルスケア業界の将来展望~ VALUE INTERVIEW 03 これからの時代の医療関係者に必要な倫理観とは?

VALUE INTERVIEWとは・・・

SSIがお届けするスペシャルインタビュー。医療・医薬品業界において、各分野をリードする専門家にお話をうかがい、いま医療の現場で何が求められているのか、どのような進化を遂げているのかお聞きします。医療機関の治験業務を支援するSMOだからこそ知ることができる業界最前線情報を対談形式でお伝えいたします。第3回目は、SSIが重視する「倫理」を取り上げ、倫理に関する問題について、慶應義塾大学 教授 前田正一先生にお話をうかがいます。

慶應義塾大学 大学院 教授 前田 正一先生とSSI 代表取締役 三嶽秋久

三嶽: 前田先生は、長きにわたり研究倫理、臨床倫理、医療安全管理等を専門に研究を行っておられますが、どのようなことがきっかけとなり、そのような研究をされるようになったのでしょうか。

前田: 大学の学部生のときに医事法の学習をする中で、終末期医療の中止に係る法的・倫理的課題に関心をもつようになりました。生命維持治療が進歩し、以前では死亡していたような患者さんについても、生命を維持することができるようになる中で、当時、「延命医療」や「無益な延命医療」といった言葉もしばしば聞かれるようになっていました。そのような中でアメリカの裁判例の分析などを通して、生命維持治療の中止の許容性について検討をしたのですが、このことが、私が医療に関わる法的・倫理的課題について研究をするようになったきっかけです。
その後は、インフォームド・コンセントや医療事故の問題など、医療に関わる他の法的・倫理的課題についても検討するようになりました。また、医学研究や公衆衛生活動に関わる法的倫理的課題についても取り組むようになり、今日に至っています。

優れた研究とFINER

三嶽: 本年4月から臨床研究法が施行されましたが、治験や臨床研究を取り巻く環境は今なお変化し続けています。現在、臨床試験などの医学研究に携わる者に対して、倫理との関係で、前田先生がまず一つ伝えるとしたら何でしょうか。

前田: 研究倫理との関係でFINERという言葉が使われることがあります。この言葉は、優れた研究の条件を簡潔に表すものであり、Feasible(実行可能であること)、Interesting(科学的に興味深いものであること)、Novel(新規性を持つものであること)、Ethical(倫理的なものであること)、Relevant(意義深いものであること)の頭文字で作った造語です。行った医学研究が優れた研究であると言えるためには、研究の実施にあたり、倫理面への配慮がなされていなければならないことを示しています。このことをまず伝えるべきだと思います。

FINER

FINER

三嶽: 研究開発を計画する段階から対応すべきことがある、つまり結果が全てではないということですね。

前田: そうです。これまででは治らなかった疾患を治すことができる、そのような薬を開発できたとしても、そのことだけでは、行われた研究開発が優れたものであったという評価は得られないということです。

三嶽: たしかに研究開発の過程で、それに携わる人全てが、倫理面に配慮した行動をとることが重要ですね。

前田: そのとおりです。しかし、倫理的に問題のある研究はこれまでにも行われてきましたし、研究不正も生じてきました。GCPといった、治験に関係する法令が整備された理由や、医学研究に関する法令・行政指針が策定された理由を理解するためにも、過去の事例を知ることは大切です。

三嶽: 未来へ目を向けたときはいかがでしょうか。再生医療やゲノム治療を含め、新しい治療法や薬剤の研究が進んでいますが、新しい研究に対しても倫理観が問われますよね。

前田: 生命科学の進歩など、医学研究を取り巻く環境の変化によって、研究倫理に関する取り組みの重要性は、ますます高まっていくと思います。

「インフォームド・コンセント」と「インフォームド・アセント」
その行動の意味を正しく理解して対応することが重要

三嶽: ご存知の通り、CRCは医療機関でインフォームド・コンセントに関わる支援などの業務も行います。弊社ではCRCに対し、十分な説明を実施することの重要性を説くと同時に、患者さんがしっかり理解されているかという点も大切なポイントとして教育しています。

前田: それは重要なことですね。インフォームド・コンセントについて言えば、その成立要素は、被験者に同意能力があること、被験者に十分な説明をすること、被験者がその説明を理解すること、被験者が自発的に同意をすることの4つです。このため、説明や理解の問題だけではなく、その他の要素にも対応することが必要です。最初に挙げた同意能力についても、小児や高齢者を対象とする場合、配慮すべき重要なことがあります。例えば、本人に同意能力がない場合には、代諾者からインフォームド・コンセントを得るだけではなく、本人に対しても説明をし理解(これを、「インフォームド・アセント」と呼ぶことがあります)を得ることが重要です。

三嶽: 今後、CNS領域の試験が増加する中で、認知症などの患者さんに対するインフォームド・コンセントについても対応が変わっていくかもしれませんね。

前田: そうですね。先ほどのインフォームド・アセントは、研究対象者が小児の場合に使われることが多い言葉ですが、インフォームド・アセントを取得するという対応は、小児の対象者に限らず、ひろく同意能力のない対象者にとって大切なことです。いずれにしても、インフォームド・コンセントやインフォームド・アセントを取得する意味が、CRCの方に真に理解され、対応がなされることが重要です。

三嶽: 弊社のマニュアルでもインフォームド・コンセントの行動内容が記載されていますが、なぜそのような行動をすべきなのかをCRCがしっかりと理解しておく必要があると考えています。より丁寧で、適切な説明や対応ができるよう、継続的な研修を実施しています。

前田: いわゆるハウツーの研修とともに、行為の意味を理解できるような研修は大変重要なことと思います。

新たな課題‐ヒトゲノム・遺伝子解析研究、再生医療研究など

三嶽: 先ほどは、研究倫理に関する取り組みが重要になった理由として、生命科学の進歩など、医学研究を取り巻く環境の変化が挙げられることをうかがいました。科学の進歩ということに関係する研究としては、具体的にはどのようなものがありますか。

慶應義塾大学 大学院 教授 前田 正一先生 前田: ヒトゲノム・遺伝子解析研究やES細胞研究、iPS細胞研究は、その典型だと思います。
ヒトゲノム・遺伝子解析研究では研究協力者とその血縁者の遺伝的素因が明らかになります。また、ES細胞研究については、周知のとおり、人へと成長できる可能性のある受精卵を壊して作製するため、そのことが認められるのか、さまざまな議論がなされてきました。そして、iPS細胞研究については、受精卵を壊すという問題はありませんが、ヒトiPS細胞、すなわちヒト由来の細胞を動物へ注入することが認められるのか、動物体内で人の臓器を作製することが認められるのか、仮に認められるとした場合、どの範囲(例えば、病態解明や創薬、人への移植)での利活用が認められるのか、といった数々の議論がなされてきました。

三嶽: 研究についても産業についても、社会の理解を得て進めることが必要であり、どちらの関係者にも倫理教育が重要ですね。

SSIの取り組みについて‐ELSI研修の開始

三嶽: SSIでは2017年10月から臨床研究倫理等に関する教育講座(12回連続シリーズ)を開設し、1年間を通して全職員が社内で研究倫理や臨床倫理について体系的に学ぶことができる体制を整えました。

前田: このお話をうかがったとき、御社の取り組みは社会的にも大変意義のあるものだと思いました。社員教育は、知識習得型やハウツー型の教育になりがちです。それらも意味はありますが、生命科学の進歩など、医学研究や医療を取り巻く環境が著しく変化していく中で、新しく生まれる課題に対応するためには、応用力や論理的思考力が必要になります。そういった力を養うためには基礎教育が重要だと思います。

三嶽: より高い倫理観をもって業務にあたる、そうした風土を築き、SSIの文化にしたいと考えています。
※ELSI研修:臨床研究・医療における倫理的・法的・社会的課題(ELSI:Ethical、Legal and Social Issues)に関する研修

慶應義塾大学 大学院 教授 前田 正一先生とSSI 代表取締役 三嶽秋久

Profile

慶應義塾大学 大学院 教授 前田 正一先生 Shoichi Maeda

慶應義塾大学 大学院 教授 前田 正一先生 Shoichi Maeda

九州大学大学院医学系研究科博士課程終了、九州大学大学院医学研究院 助手、東京大学大学院医学系研究科 生命・医療倫理人材養成ユニット 特任講師、東京大学大学院医学系研究科 医療安全管理学講座 特任助教授・特任准教授を経て慶應義塾大学に赴任。現在、慶應義塾大学大学院教授(健康マネジメント研究科 医療マネジメント学分野・公衆衛生学分野、医学部 医療政策・管理学教室(兼担)、SFC研究所 医療倫理・医療安全教育研究・ラボ)。